2006年 08月 14日 ( 2 )

方舟さくら丸

ひさしぶりに不愉快な小説を読んだ
物語の内容は、核シェルターを造り上げた男が、来るべき核戦争時代に生きのびる資格のある人間を
吟味・選別していくというところから始まるのだが、なにが不愉快かって、やはりその「リアリティ」にである

条件・選択肢を絞っていくことによって、あらわとなってくる人間の心理
特に後半は、ひとびとを戦争へと向かわせるもの、「支配できる側」に回ったときの人格「変貌」の描写、
をまざまざと見せつけ、不愉快きわまりない状況を展開する

ほうき隊、のちに新隊長の副官になった老人は、実際、「どこにでも存在しうる」変質的老人だった
「女子中学生狩り」、性的暴行を加え放題の未来図に興奮し、酔いしれるほうき隊隊員たち
現在ならばカオスそのものだが、戦時中ならば、それが「平常」感覚となりうる恐怖
現実、銭湯で談笑していた老人たちの会話を思い出した

これはフィクションでもなんでもない老人たちの和気藹々とした会話_
「あそこのおばはん、むかしヒロポンやりすぎて、裸で道走ってたことあったなぁ」
「あははは、アイツ、むかしはパンパンで有名やったんやで」
「ほんまかいな そういえば○○もやったの、やってないのって」
_老人のひとりふたりなら、こんな失言はまず吐かないものだが、4人も揃えば気もゆるみ、
思わず童心にかえり、「むかし話」に花が咲く

そういえば、安部公房は、いまでこそ気のいい孫思いの老人の仮面を被っているが、いまアナタの横で
ふつうに野良仕事している老人たちも、戦時中には出征し、東アジアの人間たちを殺していたという事実を
忘れるべきではない、と(いう趣旨の)指摘していたことがあったか
もちろんこれは全老人男性をさすものではなく、一部のではあるが、実際、「よき老人」という迷彩を施された
殺人者たちが、確実にいまも「平然と」生活しているという平和な現実がある

状況を主体的に受け止め、能動的に動く人間
受動的立場のまま、流される人間
ご破算の願望 状況次第で、支配者側にのし上がろうとする野心
人生の目標を大事とすりかえる心理
ひとをひとと思わないことが、ひととして当然と考えるひとがいるという事実
自分の野心の虜囚は、それ以上の野心を持つ存在によって、初めて自己を閉じ込めていた
牢屋のカギの在処を知る
「組織」が麻痺させる「個人」の感覚
サクラ、サクラ・・・錯乱

ほんとうに不愉快な小説 
しかし、それはもちろん目を背けるべきものではなく、凝視して検分しなければならない現実味

戦時中だって、多くの人は愛国心などを本気で信じていたわけではない。そういわなければ村八分にされてしまうし、とにかく口にとなえていさえすれば安全なのだからと、ただ機械的にくり返しているうちに、いつかそんな気持になってしまったというだけのことである(安部公房)
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by AMNESIac7 | 2006-08-14 20:10 | 読書感想文独書
< ノーベル賞作家グラス氏「ナチ武装親衛隊にいた」と告白 >
これがどういった波紋を呼ぶというのだろうか?
グラースといえば、戦後の左派論壇のオピニオン・リーダーのひとりで、ノーベル文学賞作家でもあるわけが、
彼がSSにいたからといって、彼の戦後がすべて否定されるわけでもあるまい
逆に彼のいままでの行動の根幹が垣間見えることとなった告白であり、その告白という行為自体、
評価に値するといえるのではないだろうか
騒ぐのは、もちろん右派と呼ばれている連中なのだろうが、そもそもすでに78歳の老体に、ふたたび火を
入れる必要もあるまい やぶへびになる可能性の方が大きいだろう

え、ボクがなぜ、この記事に目を止めたかって?
未読の本棚にたまたま一冊、彼の本があったからだよ そろそろ読みごろかもしれんね
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by AMNESIac7 | 2006-08-14 08:48 | ニュース