逸脱せよ!


by amnesiac7
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カテゴリ:断片小説( 28 )

死の刻限

「サラリーマンがいちばんだよ。オレの同級生で自営業やってたやつは最近、ふたりも自殺したらしいからな」
帰宅途中に耳にした、50代あたりの中年ふたりの会話に、わたしはドキリとした。
自死に対する考え。わたしはなぜ生きているのか?と。
特別、切迫した状況にはいないが、わたしの未来もさほど明るい予測の立たない不明瞭なもの。いつ足元から崩落するかも知れず、わたしはいつも得もいえぬ微弱な恐怖に胸を詰まらせていた。
     そうだ、自分から死ぬのも悪くない。この先、生き続けても、それほど楽しい未来は待っていないだろうし、プラスとマイナスで考えても、マイナスの方が圧倒的に多いはずだから。
寒さの残るこの季節、いつも心さびしい気持ちのなかにあったわたしは、死を存外、気軽に決意した。
だが、いきなり今夜、死のうという気にもなれず、ちょうど1ヶ月後のきょう、すなわちわたしの34歳の誕生日となるその日に、わたしはわたしの人生を終わらせることに決めた。いわば、<死の執行猶予期間>である。

わたしは残りの1ヶ月の間に見たものすべてを<この世で見る最後の光景>として、かみしめるように眺め、慈しみながら生きた。
他愛のない老人たちの挙動、街ゆくひとびとの空虚な苛立ち、その他すべてのものに対する"許し"の意識がわたしのなかで芽生え、自然と毎日、涙が流れ、慈悲というこころの、無常の在り処を知った。
わたしの人生には現在まで、いったい何が欠けていたのか?
それは許容という名の愛であったのではないか、と気づき始めた。そして、それはさらに自分というものに対する肯定であったのではないか、と確信する。

1ヶ月後、わたしは予定どおり死ぬことに決めた。現在までの自分と決別し、生まれ変わるのだ、と。
死ぬ気で生きなおせば、きっと新しい生命を手に入れることができるだろう。
これからは大いに恥をかき、大いにみんなにぶつかっていこう。
それこそが生きるということではないのか、と気づけたのだから、もういままでの自分は死んだも同然だった。

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発作的に書いた断片小説。はっきりいって話としてはクソほどもおもしろくない(ありふれ過ぎている)けど、冒頭のセリフは実際にきょう、帰宅途中に耳にした会話からの一節である。
死を決意したら、なんだってできるだろうに。その死と代償にちゃんと何かを手に入れてから死んだのか?という問いがあったから、こんな文章を書いてしまった。んだけど、いま風呂上りに思いつくまま、なんの構想もなく、一気に書いたから読み直すのも気の引ける話である。
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by AMNESIac7 | 2010-02-12 22:55 | 断片小説

ホーム、シック

カテドラル、もどきの建造物。
不規則に配列された(幾枚かは割れ落ちている)ステンドグラスから刺しこむ光。
町に昇る3つの太陽から、その光線は、死角のない進入を謳歌している。
ホール内を反響する音の洪水。
外からは、迫撃砲による間の悪いパーカッションも聴こえている。
椅子に座り、ハング・ドラムを叩く男の瞳は、完全なる没我を表現している。
何とも幻想的な空間だ。モニター越しに見るに限りは。

時間にして、およそ2分半。147秒によって断片化されたこの映像は、はたして現実のものだろうか?
     モニター越しに見る限り、すべてはバーチャルであるわけだが。
魂の消失した現実は、真実(仮想)をハミ出すことはない。
15時15分の鐘。或いは鐘のような15時15分。
溶解する現実と夢。刹那的疾走すら起こりえない世界。
忘却の彼方に、夢、のような世界を持つ者は、まだ幸福である。

あと5分もすれば、この聖堂にも、あのエイリアンたちが降り注ぐことでしょう。
音が近づいてきた。あの忌むべき美しい者たちの。
子猫がニャーと鳴くから、あの門はまた開くのでしょう。
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by AMNESIac7 | 2009-11-19 18:27 | 断片小説

まつ、たかこ

雨が降っている。
ふたりの男が、ホーム壁面に設置された長椅子の端と端に座り、かれこれ40分ほど。
ひとりはタバコをくゆらせ、いまひとりは読書にいそしんでいる。
3時間に2本の割合でしか、止まる電車の無いこの駅では、そう珍しくはない光景だ。

「おおい、乗っていかないのか、お前さんら?」
ようやく止まった待望の各駅停車。当然、これに乗車するものだと思われていたふたりは、どういうわけか、一度、ホームを見渡しただけで、これに乗ろうとしない。
「これを逃したら、次は2時間近く待たなければならないんだよ?」
車掌は返事のないふたりに首をかしげながら、しぶしぶと発車の合図を出した。

「・・・おい、こっちに来ないか?」ひとりの、読書男の方がわたしを手招きし、「すこしパンを分けてやろう」
タバコ男がこちらをチラリと眺めたが、また虚空にその視線を移す。
与えられたパンの切れ端には、餡子がすこし入っていた。わたしはお愛想ばかりの"ニャオ"という謝意を述べ、あっというまにそれを平らげ、また彼らの中間位置あたりへと距離を置いた。

結局、彼らはあれから4本も希少な電車をやり過ごし、まだこの駅のベンチに座っている。
無人駅でなければ、駅長がやってきて、その理由を問うてくれるはずだが、ざんねんながら彼らの意図
するところは現在、未だ不明である。

キキー。本日最終の電車がホームに滑り込む。
ひとりの女が降りてきた。1両こっきりの各駅の電車では、本日3人目の降車客だ。
男たちが立ち上がる。
車掌も身を乗り出している(おそらく車掌仲間から変な待ち人の噂を聞いていたのだろう)。
「あら、待っていたの、こんな遅くなのに。時間も言わなかったのに、いったい何時からここにいたの?」
「さあね」ふたりの男の返事が揃い、男たちは中途半端に睨み合う。
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by AMNESIac7 | 2009-10-28 13:25 | 断片小説

地図

「タコ焼きの匂いがする角を左にまがり、ひまわりの香りがする筋を道なりに50mほど、
点字タイルのある交差点にたどり着くから、そこを右に       
ボイスレコーダーを手にし、薄目で、何やらぶつくさ。
「やぁ、M下くん。いったい何をやってるんだい?」
「いやぁ、M沢さん。今度、M本のヤツがウチに遊びにくることになりまして」
M本といえば、先天的に盲いた、われわれ共通の知人である。
「で、キミは家までの道順を録音していると?」
「左様でございます」
「その日は、駅まで迎えにはいけないの?」
「あっ・・・・!」

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音で描かれた地図 (聴覚障害者への秘匿。読唇術でも通用しない)

匂いで描かれた地図

肌触りで描かれた地図

味で描かれた地図

鳥眼で描かれた地図

猫眼で描かれた地図 (100m圏内)
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by AMNESIac7 | 2009-10-20 19:10 | 断片小説
「オレは自殺する」と毎日唱えていた男が殺された。他人に。
しかし、あまりにも自殺をほのめかし続けていたので、彼の死を、誰も他殺とは考えなかった(それが
かなり不審な死に方であったにも関わらず)。
もちろん、彼は化けて出ることを選択する。黙っているわけにはいかない。死者の告発だ。
だが、それもうまくはいかない。なぜなら、周囲に彼の死に違和感をおぼえた者がいなかった為だ。
霊体を得るためのエッセンスが、あまりにも不足していた。
彼は焦った。このままでは完全に消えてしまう、と。
そもそも、自分がなぜ死にたがっていたのからすらも、死の数分後には、忘れてしまっていた。
輪郭が見当たらない。そもそもオレは生きていたのか?
そもそも・・・"そもそも"とは何だ?
そもそも、ここまでの、いち生涯の、流れに、何かわずかにでも"意味"があっただろうか?
そもそも、オレの人生は・・・"オレ"とは、何だったのか?

風が吹いて、命が流れた。
風が吹いても遺るのは、生命だけだ。
この街はまるで荒野だ。
何も存在しないし、これからも何も遺すまい。

眼をひらく。街そのものが霧散していた。
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by AMNESIac7 | 2009-10-05 18:34 | 断片小説

閉塞のマトリョーシカ

ドアをノックする音。
この煮詰まった状態においては、それはほとんど福音の響きだった。
だが問題は、ノックされたのが玄関ではなく、隣の部屋と通ずるそれだったことだ。
ここ数年、この家にはオレ以外、誰も存在したことがないというのに。

閉塞がさらなる閉塞を生む。
閉塞のマトリョーシカ。いつのまにか、オレには数十重の外壁が覆いかぶさっている。
ほとんどは、オレの性格に起因する、とるに足りない引っかかり、だが   

打撃音がボリュームを上げる。明らかにグー。拳骨の祭り太鼓。
オレはヤク中じゃない。「オレは大丈夫だ」と3回小さく唱える。
オレは大丈夫だ? そんなことを確認しなければならないほど、オレは大丈夫じゃなくなってるのか?

ドアを開く。
ドアの前に立っていたのは、オレにそっくりな    オレ自身だった。
意識が遠のき、はっきりとする。
オレは今までいた部屋を覗き込んでいる。
やけに濁った空気。窓も雨戸も閉まりきっていて、外界を完全に遮断し、カビを自生させ。

ふり返る。
今度の部屋    隣の部屋にも、やはり光は射し込んでいない。
今度は内側からぶち破るか? 今度?

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見上げる。無限の空。
無限にも無限の絶望がある。

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永遠の拡張工事(自己虚構)
オマエはどこまでデカくなったと思えなければ、外界に触れない気だ?
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by AMNESIac7 | 2009-09-17 18:41 | 断片小説

友情

「あいつは何に対してでも、いっさい報われてはならないのだ」
一番の友人と言われているはずのこの男から、なぜこのようなセリフが飛び出すのか?
「あいつの詩は、あいつの烈情によってビカビカと光る。烈情は怒り、不満から生まれるのだから、小さなものでも満足は敵なのだ」
どうやら彼は、友人である詩人そのひとよりも、詩人が紡ぎ出す詩そのものを強く愛していて、結果、彼は友人の不幸を歓迎するような下劣な人間であるらしい。
わたしは、このことにたいへん憤りをおぼえ、詩人である男にありのままを告げ口する。
だが、詩人から返ってきたことばも、わたしの予期せぬものであった。
「それほどまでに彼は私の詩才を愛していてくれただなんて、なんと素晴らしい男なのだろうか!」
友情の回路にも、様々な種類があるらしい。わたしには理解できぬことだが、たしかに彼らの友情は本物であり、親友と呼べる間柄といっても差し支えのないようだ。

しばらくして、発表された詩人の新作の評判は、非常に芳しくないものとなった。
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by AMNESIac7 | 2009-09-12 19:14 | 断片小説

組み合わせ

「オマエが買ったら生々しい」
「お前も買うつもりか? 何かのまちがいだろ?」
場外馬券売り場。3人組のひとりの男が、連れらしき女と男2に向かって、何かしらを説いている。
女は三十路も半ばあたりのケバめのミニスカ。男2はメタボリック丸出しの年齢不詳ハゲだ。
「だから、お前らがイケテルメンズの単勝馬券なんて買ったら、勝つ以前に負けだって言ってんだよ!」
イケテルメンズ    次のレースの一番人気馬だ。
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by AMNESIac7 | 2009-09-12 19:01 | 断片小説

死の順位

昼過ぎ、目を覚まし、メールをチェックすると、どういうわけか、ひと眠りのあいだに三件もの訃報が入っていた     外では戦争でも始まっているのか?
死んだというのは3人とも、それなりに親しい間柄にあったひとだちだ。
ひとりは友人の父で、その友人よりも"話せる"ひとだった。
いまひとりは、ボクとさほど歳の変わらない(正確にわからない)大学時代のサークルの先輩。
そして、最後のひとりは4シーズン前の元カノ。
3人とも現在のところ、事件性はなさそうで、病死、事故死、病死だそうだ。
完全に醒めきらないアタマで、ボクは3人のことを思い出し、想う。
さあ、誰の死がいったい、ボクの心をいちばん揺さぶるのだろうか?
全てが、どういうわけか - 起きぬけだから - おぼろげでなかなか定まらない。
ふたたび、ベットに仰向けになる。ふと、ひさしぶりに朝(昼?)勃ちしていることに気づく。
ボクはまず、元カノの死に支配され、泣き始めた。
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by AMNESIac7 | 2009-09-11 18:43 | 断片小説

誠実

「オレたちは不誠実であることに、常に誠実であらねばならない!」
極めてテクニカルな、計算しつくされた不誠実な振る舞い。
一流のホストとは、常に自覚的に少し常軌を逸したキャラを演じなければならない生物である。
「だから今夜はどんなタイミングでもいいから、とにかくチンコ出していけ!」
いったい何の話だ?
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by AMNESIac7 | 2009-09-11 18:34 | 断片小説