逸脱せよ!


by amnesiac7
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まつ、たかこ

雨が降っている。
ふたりの男が、ホーム壁面に設置された長椅子の端と端に座り、かれこれ40分ほど。
ひとりはタバコをくゆらせ、いまひとりは読書にいそしんでいる。
3時間に2本の割合でしか、止まる電車の無いこの駅では、そう珍しくはない光景だ。

「おおい、乗っていかないのか、お前さんら?」
ようやく止まった待望の各駅停車。当然、これに乗車するものだと思われていたふたりは、どういうわけか、一度、ホームを見渡しただけで、これに乗ろうとしない。
「これを逃したら、次は2時間近く待たなければならないんだよ?」
車掌は返事のないふたりに首をかしげながら、しぶしぶと発車の合図を出した。

「・・・おい、こっちに来ないか?」ひとりの、読書男の方がわたしを手招きし、「すこしパンを分けてやろう」
タバコ男がこちらをチラリと眺めたが、また虚空にその視線を移す。
与えられたパンの切れ端には、餡子がすこし入っていた。わたしはお愛想ばかりの"ニャオ"という謝意を述べ、あっというまにそれを平らげ、また彼らの中間位置あたりへと距離を置いた。

結局、彼らはあれから4本も希少な電車をやり過ごし、まだこの駅のベンチに座っている。
無人駅でなければ、駅長がやってきて、その理由を問うてくれるはずだが、ざんねんながら彼らの意図
するところは現在、未だ不明である。

キキー。本日最終の電車がホームに滑り込む。
ひとりの女が降りてきた。1両こっきりの各駅の電車では、本日3人目の降車客だ。
男たちが立ち上がる。
車掌も身を乗り出している(おそらく車掌仲間から変な待ち人の噂を聞いていたのだろう)。
「あら、待っていたの、こんな遅くなのに。時間も言わなかったのに、いったい何時からここにいたの?」
「さあね」ふたりの男の返事が揃い、男たちは中途半端に睨み合う。
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by AMNESIac7 | 2009-10-28 13:25 | 断片小説